開放的なLDKは本当に必要なのか【建築士のひとりごと】

新築でもリフォームでも、必ずと言っていいほど施主から「LDKを広くしたい」「開放的な空間を作りたい」と要望される。

一方で、いざ住み始めてみると収納が足りなかったり、家具を置くにしても壁が足りなくて配置に困るという声が聞こえてくる。

住宅において、快適さと利便性は両立できないのだろうか。決してそんなことはない。

しかし、住み始めた後に計画時とのギャップが生まれてしまっている問題に対して、その要因と解決策について考える。

打合せ時と住み始めた後でギャップが発生する要因

ここではギャップが発生する要因について整理する。

モデルハウスやSNSによる開放的な空間への憧れ

住宅展示場にあるモデルハウスは、実際の生活をモデルに作られていない。にもかかわらず、間取りを考えるうえで、モデルハウスを参考にしている人は多いのではないだろうか。住宅は、見た目の美しさよりも住みやすさや快適性を重視するべきだと考える。しかし、モデルハウスは販売促進が目的で作られているため、見た目の美しさを優先しがちだ。モデルハウスはあくまで商品の展示・紹介だと考え、住まい方や暮らしの参考にするべきではないのかもしれない。

最近では、モデルハウスだけでなく、SNSで見る空間を参考にする人も多い。流行りのデザインや実際に住んでいる人の意見を知れるという意味では、SNSは素晴らしいが、人の真似をするだけでは、自分の快適さは手に入らないということを忘れがちだ。住まい方の正解は、住む人本人にしかわからない。同じ立地で同じ空間に住んだとしても、感性の異なる人が住めば不正解になりかねない。間取りや建築に依存して快適さを手に入れようとするべきではない。

これまでの生活を見直さずに、理想の生活に合わせて間取りを作る

住めば都という言葉があるが、これから住み始める住宅や少し住み慣れてきたころに思うことはあっても、これまでずっと生活してきた空間を都だと思ったことがある人はどのくらいいるだろうか。今の住宅で不満に思う点を、次の住まいでは解消したいという人は多いが、その逆は非常に少ない。快適さや住まいやすさは、無意識に感じているものだ。

住みにくさの中で工夫して生まれた生活習慣が、実は無意識な快適さにつながっていたと思うことがある。私の実家は、築30年で今の住宅ほど気密性や断熱性が高くない。春秋は冷暖房に頼らず、窓の開け閉めで室内の温度を調整するのが当たり前だった。しかし、就職して築浅の気密性・断熱性が高いアパートで一人暮らしを始めて、窓の開け閉めをほとんどしなくなった。冷暖房に頼って快適だと思っていたが、ある日ふと換気のために窓を開けてみると、あまりの気持ちよさに驚いた。それ以降、積極的に窓を開け閉めしているが、一気に生活の快適さが増した。解消されて住みやすくなるはずの面倒な習慣の先に、私が求めていた快適さがあったのだ。

本題にあるLDKで考えると、L(リビング)、D(ダイニング)、K(キッチン) の全てに閉塞的で狭いと不満を持っている人はそう多くない。にもかかわらず、LDKを一体的に広くして、不満を解消した気になっている。また、閉塞的であることや狭いことが必ずしも住みにくく不快な空間ではないということを忘れてはならない。人によって適したスペースや開放感があり、その基準として今の生活にしっかりと目を向けなけれなならない。

広い空間=可変性が高いという誤解

家族構成やライフスタイルに合わせて、生活は変わっていく。生活に合わせて、間取りや空間構成を変化していくことが重要である。だから、広い空間をとりあえず用意し、間仕切りは家具で融通が利くようにするというのだ。理にかなっているようだが、果たしてそんなに単純な話だろうか。

まず、家具の配置変更や買い替えをライフスタイルに合わせて行う費用や労力、そのタイミングについて考慮できているだろうか。一年に1階の大掃除ですら大変で間に合わないことがあるのに。大抵は子供の成長に合わせて、間取りの変更を検討していることが多い。では、子供がどのタイミングで間取り変更する必要があるだろうか。この問題について考えると、次の問題にぶち当たる。

住宅の中でも家族の共用空間に当たるLDKの間取り変更は、本当に必要だろうか。誰にとって必要だろうか。子が育って大人になっても、自分が年老いても、家具による間取りを変えるだけで解決できる問題がどれほどあるだろうか。個室が必要になったり、プライベート空間の変化はあるだろうが、LDKに変化はそもそも必要ないのではないだろうか。

後悔しないためのLDKの考え方

ここまでに挙げた要因をもとに、LDKの考え方について整理する。

本当に必要な空間だけを確保する

必要な空間は人によって異なる。SNSを見ればとてつもない量の情報があふれているが、鵜吞みにしてはいけない。いいと思った空間があれば、その本質的な部分である、どうしていいと思ったのかを深堀して考えなければならない。

例えば、開放的で綺麗に整理整頓されたキッチンに魅力を感じたならば、開放的で物が多いキッチンと閉塞的だが整理整頓されているキッチンのどちらが好ましいか考えてみてほしい。前者であれば開放的な間取りが必要で、後者であれば整理整頓がしやすい住まい方の工夫が必要である。どちらも両立できればそれでいいが、どちらか一方で快適さを手に入れられるのであれば、他に費用やスペースを使うことができる。無駄をなくすことは、後悔や不満をなくすことにつながるだろう。

今の生活をきちんと分析する

不満に感じる部分だけでなく、習慣になっている住まい方や少しの快適さにもきちんと目を向けよう。不満を解消することで、これまでの快適さが消えてしまっては元も子もない。また、不満を解消するために必要なのは、必ずしも建築的要素だとは限らない場合もあるだろう。住まい方の工夫で解消できることなのか、そうでないのかをよく考えてみるべきだ。建築に依存して生活しているだけでは、快適な暮らしは手に入らない。

そういった分析をすることで、本当の理想のLDKがイメージできるようになるだろう。それは人によっては、開放的でも広くもないかもしれないが、その人の理想のLDKで間違いないのである。

最も快適に暮らしたい時期を明確にする

ライフスタイルに合わせて間取り変更を考える場合、どの時期に焦点を当てるかは検討しておくべきである。乳幼児と過ごすLDKと子供が巣立った後の夫婦だけで過ごすLDKは、間取りを変えたとても同じ空間に変わりはない。どちらの過ごし方を優先するかによって、LDKだけでなく家全体の間取りも大きく異なるだろう。焦点を当ててない時期は不便でも仕方ないと言っているわけではなく、どちらかに焦点を定めることで初めて、可変させる部分とそうでない部分を明確にできる。必要な部分だけ可変性を持たせることで、それ以外の部分での迷いや後悔をなくすことができる。

さいごに

最近の、LDKを含む間取りの単純化に疑問を抱き、今回この記事で思考を整理した。誰にとっても理想の住空間は存在するかもしれないが、それが今主流の開放的な広いLDKだとは私は考えられない。もっと多様な視点から、様々な選択肢があってもいいのではないのだろうか。これから住宅を建てる人やリフォームをする人には、正解がないのが家づくりの面白いところでもあるので、これまでの住まい方も含めてじっくり検討して、唯一無二の納得いくLDKを作り上げてほしい。

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